土用の午の日
「庭いじりや土いじりは、大きなはさみやスコップでケガをする。大事な契約ごとをしないっていうのは、情緒不安定になりやすい時期だから後悔しかねないってこと。迷信みたいだけど、ちゃんと論理的に説明がつくんです」


「俺、来月の半ばに引っ越すんだけどさ。今週末、物件見に行く予定なの。それもやめたほうがいい?」


「見に行ってもいいですけど、契約は土用が明けてからの方がいいですよ。今年だと十月七日以降」


「了解」


 ちょうど背中から腰にかけてのマッサージが終わり、四つん這いになってもらってお尻の割れ目から指を這わせる。力なんて入れなくていい。爪先だけをゆっくり丁寧に滑らせるのがこつだ。


 ただモノを握って射精へ導くだけが回春じゃない、性感帯は女性と同様男性の体にも至るところに存在しているし、体を押し付けたり耳たぶに息を吹きかけたり客を高ぶらせる方法は無数にある。


そういったものを駆使し、試行錯誤しながら技を磨いていくこの仕事をあたしは決して嫌いじゃない。


 自分が触られなければ、という条件つきで。


 幸い今回の客は感じやすい早漏で、上手いことこちらの思惑どおりさっさとイッてくれたので助かった。これで七十分新規指名、一万円。


ソープやヘルスに比べればバックは安いが、サービスの軽さから考えるとこれが妥当な額なのだろう。


「お疲れ様でーす」


 迎えの車を運転していたのは常盤さんだった。後部座席がワンタッチで開く大きなシルバーグレーの車に乗っていて、車と同様本人も大きい。


身長は百八十センチ、体重は百キロもあるという。最初に見た時は公園を散歩させられている、大きくて毛足が長くてハァハァ忙しく舌を動かす犬を思い浮かべた。
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