土用の午の日
「土用の時期は運転荒い車が多いから、怖いですね」


 運転席の常盤さんがさりげなく言う。彼もまた、土用が年に四回あることを知っている人間だ。そもそも、彼にそのことを教えたのはあたしなのだが。


「えー。事故とかほんと困るっ。気を付けて下さいよー」


「いつも以上に、安全運転です」


「常盤さんの車はほんと安全運転ですよ。他のドライバーさんはバカみたいに飛ばしたり、変な音楽かけたり、結構多いですから。しかも中も広いし、完璧です」


「燃費が悪いのが欠点なんですけどね。あとすずさん、仕事入りました」


「はーい」


 すずさんを西新宿のマンションの一室に送り届けた後は、常盤さんと二人きりになった。常盤さんが店に電話連絡、指示があるまでマンションの傍で待機とのこと。


思わずやったーと二人でハイタッチを交わし、かばんから同じ弁当箱を取り出す。中身ももちろん同じ。


「家出てから何も食べてないから、腹減ったー」


「お腹空いてるから今、なんでもおいしい」


「なんでもおいしいけど、特に梨亜の料理は旨いよ、不思議なくらい。この鶏ごぼうのおにぎり、絶品」


 ドライバーの常盤さんとは八か月前から付き合い始め、五カ月前から同棲している。お弁当と水筒を持参している風俗嬢なんて貧乏臭すぎるからか時々お客さんに笑われるが、節約には効果的だ。


コンビニで食事を用意するよりずっと安く済むし、何より常盤さんと同じお弁当を持って同じ職場に行くのがすごく楽しい。


 すずさんにも誰にも内緒にして、共犯者の笑みを交わして、秘密を抱えて。
< 5 / 6 >

この作品をシェア

pagetop