エリート専務の献身愛
「は? これから仕事の話をするために、彼女の了承はもらっていますが」

 辻先生は若干苛立ちながら、浅見さんに答える。それを受けた浅見さんは、私に真顔を向けた。
 その瞳は今まで私が知るものとは違っていて、背筋を震わせる。

「だけど、触れてもいいとは許可されていませんよね? 彼女をほかのお相手と一緒にしないでいただけます?」
「なっ……デタラメなことを! 警備を呼ぶぞ!」

 言葉遣いは終始柔らか。だけど、確かにさっきドアが壊れそうなくらいに音を上げていたのは同一人物の彼のはず。

 浅見さんの初めて見る一面に、身動きができない。

 浅見さんは、小さなビジューの付いた私のヘアゴムを辻先生の手から奪い取る。そして、それを乗せた手のひらに視線を落とし、淡々と言う。

「呼んで不利になるのはどちらでしょう。あなたは女性関係で色々な噂をお持ちのようですし、奥にいる彼女が証言してしまえば言い逃れできないと思いますが」

 色々な噂……? やっぱり、こういうことは日常的にしているっていうこと?

 言葉を詰まらせている辻先生に蔑んだ目を向ける。
 でも、そんな軽蔑心を忘れてしまうくらい、驚きの光景を目の当たりにしてしまった。

 あの温厚で優しい浅見さんが、険しい顔をして辻先生の白衣を締め上げている。

「二度と、彼女に触るな」

 それは、怒りの籠った唸り声。低く冷たい声に、私までぞくりとする。

「行こう」

 やや乱暴に白衣を離し、今度は私へ手を伸ばす。
 応接室から連れ出してくれた手は少しだけ強引で、浅見さんが怒っているのがわかった。

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