エリート専務の献身愛
浅見さんに手を引かれたまま、病院をあとにする。
長い足でずんずんと足を進められると、ついていくのがやっと。でも、なかなか話し掛けられない理由はそうじゃなく、浅見さんがあれから一度も私に声を掛けるどころか、見てもくれないからだ。
怒っているのだろうか。
本当は、聞きたいことはたくさんある。
電話の用件はなんだったのか。なんであの場に来てくれたのか。
昨日の彼女は、浅見さんにとってどういう存在なのか――。
勝手に次々と浮かぶ疑問。それが行き着いたのはあの女性のこと。
そこまで思考を巡らせたときにハッとする。
彼女を初めて見たのは、あの病院内だった。その後すぐ、外で浅見さんと遭遇した。
……ということは、彼女がなにかしら病院にかかる理由があって、それの付き添いで来ていた?
「ボーッとして、なに考えてるの?」
「えっ」
浅見さんが口火を切り、突然足を止めた。そしてスッと手を出される。
みると、さっき取り返してくれた私のヘアゴムだ。
「もしかしてオレ、余計なことした? 彼とはそういう関係だった? そういえば前に言っていたしね」
「ありえません! さっきのことは浅見さんにはご迷惑をお掛けしましたけど、私、本当に助かって……」
冷たく言い放たれ、必死に否定する。動揺していて、今になって浅見さんの言葉に引っ掛かりを覚える。
「あの、『前に言っていた』って……私、なにか変なこと言いました?」
覚えがないことだから、確かめるのが怖い。
恐る恐る尋ねると、浅見さんはヘアゴムを握って手を引っ込める。顔を逸らし、ぽつりと答えた。
「……この病院には『笑顔で待ってくれる人がいる』と」
待ってくれる……? 私、そんなこと浅見さんに言った?