エリート専務の献身愛
「昨日、偶然見ました。碧い目をした、とても美人な女性と一緒にいて……彼女が隣にいることが当たり前だ、と聞こえました。だから」

 浅見さんが本当に側にいて欲しい人は、私じゃない。

「だから、瑠依はオレにとって唯一の存在ではないって?」

 鋭い声に委縮する。浅見さんの顔を見ることができない。
 そんななか、私の背に手を添えたまま彼は言う。

「彼女……レナはオレの秘書だ。有能でいて、オレと同じような生活環境だったから、話が合うんだ。それ以上でも以下でもない」
「秘書……」
「仕事のパートナーとして、確かにレナは必要だけれど、オレがひとりの男として求めているのは瑠依――キミだよ」

 顔を合わせなくても、今の声が、どんなに気持ちを伝えたいと思っているかを感じた。根拠もない。説明もできない。でも、私の第六感が『これは彼の本心だ』っていっている。

 静かに浅見さんを見据えると、自然と疑問を零していた。

「なんで、そんなに私を」

 浅見さんは、身体を引き寄せていた手を私の両頬に持ってきて包み込む。

「一緒にいて穏やかな心でいられる存在だから」

 出会ったときからだ。
 彼に引力を感じ、気づけば惹きつけられている。

 それに気づいていたうえで、離れようと思っていたけれど――。

「さっきの続き。……瑠依、頷いて」

 今度は耳もとに唇を寄せ、ひどく柔らかな声で囁かれる。
 こんなに甘く迫られて、拒む力なんかもうない。

 ぎこちなく僅かに首を縦に振る。このあと、どうなるかなんて考える余裕もない。
 睫毛を伏せていた私の視界に、薄っすら笑みを浮かべる彼の口が映り込む。

「んっ……」

 次の瞬間には私たちの距離はなくなって、感触も匂いも思考もぜんぶ、浅見さんでいっぱいになる。

 一度唇が離れたときに、少しだけ目を開く。
 霞んだなかで見えた浅見さんのうれしそうな笑顔に、心拍数がさらに増した。

 すぐに瞼をきつく閉じ、再び温かな唇が触れる。

 私は、脳内で今見たばかりの満たされた笑みを思い出しながら、それ以上に自分のほうが絶対頬が緩んでいるはずだと思った。
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