エリート専務の献身愛
「お待たせいたしました」

 十数分後。女性スタッフから少し遅れて、浅見さんの元へと戻る。
 でも、あまりに恥ずかしすぎて、彼の目を見るどころかひと声も発せない。

「急だったので、数着の中からしか選べなかったのですが……さすがパートナーですね。彼女にとてもお似合いです」

 紫がかったピンクは、明るすぎなくて落ち着いた色。

 前後の裾丈の差があるセミフィッシュテールのフレアスカート。同色の太めのベルトによってメリハリのあるラインができていて、優雅な印象を与えるワンピース。

 女性は嬉々として話をしているけれど、後ろにいる私はどこかに隠れてしまいたい気持ちでいっぱいだ。

 さっき、フィッティングルームに通されたかと思えば、あれよと言う間にドレス姿に変えられた。髪も手早くコテで巻かれ、左に流してピン止めされるという、ワンサイドのダウンスタイルにしてくれた。

 どうやらこのブライダルサロンと提携している衣装ショップに、このドレスを用意しておいてもらっていたらしい。

 そのショップは、ウエディングドレスだけではなく、パーティードレスも扱っていて、オートクチュールからレンタル、販売まで幅広く手掛けていると着替え中に教えてもらった。

 女性スタッフとの話が一段落したらしく、浅見さんがジッと無言で私を見つめてくる。私は堪らず、俯いて早口になった。

「こ、こんな高そうなドレス……。それに、少し派手すぎませんか? 私、こういう色は私服でも着たことがないですし」
「だと思った。瑠依はきっと、黒とか青を選ぶんだろ? だけど、こういう色も似合うよ」

 浅見さんは小さく息を漏らした後、苦笑する。
 そこまで予測されていると思うと、私が考えていることとかも全部見透かされているんじゃないかと恥ずかしくなる。

 赤くなる顔を必死に抑えようと下を向く。用意してくれたシャンパンゴールドのパンプスの先に、黒い革靴が近づいてきた。
 ドキッとするのと同時に、耳元で囁かれる。

「想像以上に可愛い」

 瞬間、耳がカァッと熱くなり、咄嗟に顔を上げてしまう。

「じゃあ、上へ行こうか」

 浅見さんは、さながら王子様のように、右手をスッと差し出した。私は少し躊躇ったけれど、そっと手を重ねる。
 移動中、チラッと彼に目を向けたときに、視線がぶつかった。

 その眼差しが優しすぎて、私はまた頬を赤らめながら俯いていた。
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