エリート専務の献身愛
「私、本当は医者か看護士になりたかったんです。父と母がそうなので。でも、どうにも血が苦手で……。それで、薬剤師の兄の勧めで薬学部に入ったんですが、研究に閉じこもっているのが息苦しく感じてきてしまって」
だから……気づけば胸の内を零していた。
ずっとずっと、自分の中に留め、抑えていた子どものような感情を。
「こう見えて、昔から、結構部屋に籠って勉強を頑張ってはきたんです。それでも、兄には到底及びませんでしたけれど」
頑張っても報われない。
認めてほしい人に見てもらえない。
それでも、ほかに方法を知らなかったから、ただ自分に『もっと頑張れ』と言い聞かせるだけだった。
「なんとなくわかるよ。今の瑠依を見ていたら。小さい頃から頑張っていた姿が目に浮かぶ」
そう言って綻ばせる顔は、思い込みかもしれないけれど、やっぱり私に〝合わせて〟言っているんじゃなくて、本当に思ってくれていると感じる。
ちゃんと私を見てくれているって、信じていいよね……?
テーブルの下で両手をグッと握り、視線を上げる。
「だけど、結局、父は私をテストの点でしか評価しないまま今に至ります」
もう、私を見てもらうことはとうに諦めた。けれど、友達でも先生でも、上司でも先輩でも営業先でも、あのときと同じような思いを抱えながら接している。
きちんと認めてもらえるように、存在を肯定してもらえるように、目の前のことを精いっぱい頑張ることを、私は今でも――。
「あ。話が逸れましたね。今の仕事、私は好きですよ。薬学部にいたときに、入退院を繰り返していた祖父がMRの話をしてくれて興味を持ったんです」
グラスにまだ少し残っているワインを見ながら、小さく笑った。
「まぁ、最後まで父は渋い顔のままでしたけれど」
自分のこういう話を人にするのは初めてだった。
口に出してしまうと、内に秘めた苦しい感情が鮮やかに蘇り、またあの頃の自分に戻ってしまうんじゃないかって思っていた。
でも、思っていたよりも……いや。むしろ、胸のつかえがとれた感じ。
言葉にすることで、決別できることもあるのかもしれない。
そんなことに気づき、ようやく緊張が解れてきて浅見さんをまともに見た。
彼は頬杖をついた手で口元を押さえ、難しい顔をしている。
だから……気づけば胸の内を零していた。
ずっとずっと、自分の中に留め、抑えていた子どものような感情を。
「こう見えて、昔から、結構部屋に籠って勉強を頑張ってはきたんです。それでも、兄には到底及びませんでしたけれど」
頑張っても報われない。
認めてほしい人に見てもらえない。
それでも、ほかに方法を知らなかったから、ただ自分に『もっと頑張れ』と言い聞かせるだけだった。
「なんとなくわかるよ。今の瑠依を見ていたら。小さい頃から頑張っていた姿が目に浮かぶ」
そう言って綻ばせる顔は、思い込みかもしれないけれど、やっぱり私に〝合わせて〟言っているんじゃなくて、本当に思ってくれていると感じる。
ちゃんと私を見てくれているって、信じていいよね……?
テーブルの下で両手をグッと握り、視線を上げる。
「だけど、結局、父は私をテストの点でしか評価しないまま今に至ります」
もう、私を見てもらうことはとうに諦めた。けれど、友達でも先生でも、上司でも先輩でも営業先でも、あのときと同じような思いを抱えながら接している。
きちんと認めてもらえるように、存在を肯定してもらえるように、目の前のことを精いっぱい頑張ることを、私は今でも――。
「あ。話が逸れましたね。今の仕事、私は好きですよ。薬学部にいたときに、入退院を繰り返していた祖父がMRの話をしてくれて興味を持ったんです」
グラスにまだ少し残っているワインを見ながら、小さく笑った。
「まぁ、最後まで父は渋い顔のままでしたけれど」
自分のこういう話を人にするのは初めてだった。
口に出してしまうと、内に秘めた苦しい感情が鮮やかに蘇り、またあの頃の自分に戻ってしまうんじゃないかって思っていた。
でも、思っていたよりも……いや。むしろ、胸のつかえがとれた感じ。
言葉にすることで、決別できることもあるのかもしれない。
そんなことに気づき、ようやく緊張が解れてきて浅見さんをまともに見た。
彼は頬杖をついた手で口元を押さえ、難しい顔をしている。