エリート専務の献身愛
「浅見さん?」

 不思議に思って声を掛ける。すると、私と視線を合わせぬまま、手を外して小さく口を開いた。

「瑠依。そういう話は、こういうところでされたら困る」

 ぽつりと言われ、ハッとする。
 私の身の上話なんてジメジメしてて、こんな華やかな場所でするような話題じゃなかった。

「す、すみませ」
「健気に頑張る瑠依を今すぐ抱きしめたいのに、ここじゃ叶わないだろう?」

 肩を竦め、頭を下げて謝罪をしかけた。そのときに、浅見さんはまったく予想もしていない反応を返してきて、私は再び顔を上げてしまった。

 すると、今度はきちんと私を真っ直ぐ見ていてくれて、慕情溢れる眼差しに彼以外見えなくなる。

「瑠依を知ってから、ずっと見てた。キミはいつもどこかギリギリなのに、他人への優しさを忘れない。些細なことだけど、そういうところに惹かれた」

 これまでの私なら、こんな甘い言葉なんて、最初から聞く耳も持たなかったと思う。
 それなのに、今では胸が高鳴って、うれしいって感じている。

「もしかして瑠依って、頑張ったご褒美とか自分にしたことないんじゃない?」
「そう言われたら、特には……」

 だって、いつまでも百点じゃない気がして、ご褒美なんてあげるタイミングも、あげようと思ったことすらもない。

 浅見さんはもごもごと答える私を見てまた笑う。

「ストイックっぽいもんな。じゃあ、これからはオレが甘やかすようにしよう」

 そうして、彼は目を柔らかく細める。

 一緒にいてドキドキはするけれど、疲れたりはしない。
 緊張はするけれど、話をしていて楽しい。

 こんな人にこれから甘やかされてしまったら、もしかして私は怠け者になってしまうかもしれない。
 それはダメだ。ちゃんと、自分の足で立てる女性を目指しているんだから。

 心の中で戒めるものの、目の前に広がる非日常のシチュエーションと最高の彼に、私はつい酔ってしまった。

< 115 / 200 >

この作品をシェア

pagetop