エリート専務の献身愛
 美味しい料理だと、お酒って自然と進んじゃうんだ。

 ふわっとした頭で考えながら、レストランを出た。
 エレベーターホールまで向かうときに、浅見さんが腕を貸してくれた。私は一瞬迷いながらも、その腕に手を添える。

 こういうさりげない気遣いってすごいと思う。
 相手から安心と信頼を与えられるのは、こんな些細なことからかもしれない。

 エレベーター前まで到着し、ふとホール側面の窓に目を向けた。
 自分の姿を見て我に返る。

「あっ。帰る前に着替えなきゃ。このドレス、クリーニングに出した方がいいですよね?」

 高そうな服だから、汚さないように気を付けてはいたけれど、このまま返すわけにはいかない。
 初めは私には似合わないと思っていたドレスだけれど、今はちょっと脱ぐのが惜しい気持ち。

 やっぱり私も一応女子なんだな、と苦笑する。

 エレベーターのボタンを押した浅見さんが、振り返りざまにさらりと言った。

「ああ、それはもう返さなくてもいいよ」
「え? だって、これレンタル……」
「オレから瑠依にご褒美。オートクチュールじゃなくて申し訳ないけど」
「こ、こんな高価なもの!」

 浅見さんを見上げて目を瞬かせる。ほぼ同時にエレベーターが到着し、扉が開いた。彼が先に乗り込むと、戸惑って動けないでいる私の手を引いた。

「お金については気にしないこと。それに、値段以上に価値のあるものが見れて、オレは満足」

 扉が閉まるなり、ふたりきりのエレベーターで抱きしめられる。
 浅見さんは驚いて声も出せずにいる私の顎を掬い上げ、にっこりと笑みを浮かべた。

「すごく似合ってる。こういう格好の瑠依もいい」

 頬が熱い。触れられている背中も、顎も、全細胞が自分のものじゃないみたい。今までにない感覚が電流のように全身を走り抜ける。
 刹那、僅かに傾けた彼の顔が近づいてきて、唇を重ね合わせた。

 エレベーターはまだ降下している。
 私は、どこかで止まって扉が開かれるかもしれないという心配よりも、ただ、浅見さんの体温に心地よさを感じていた。

 ゆっくりと離されていくことに、淋しいとすら思う。
 静かに睫毛を上向きにさせていく。浅見さんの双眸を捉えると、彼は私の頬を包み込んだ。

「……瑠依。まだ一緒にいたい」

 浅見さんの声が、さっき飲んでいたワイン以上に私を熱くさせる。
 そして、気づけばエレベーターは上昇していた。
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