エリート専務の献身愛
 こんな時間に倉庫に誰かいるなんていうほうが珍しいと思い、ヒールをカツカツと鳴らして足を向ける。

 プレートを見ると【物品庫】と書いてある。それこそ、残業してまで物品の補充をするわけもなさそうだし……と、ドアに手を伸ばした。次の瞬間、カチャッとドアノブが回って息が止まる。

「わぁっ……! き、きき、城戸さん!?」
「きゃあ! ぶっ、部長!?」

 閑静な廊下にふたりの悲鳴が響く。
 ドアの隙間から顔を出したのは、紛れもなくウチの部長だ。

 びっくりしすぎて、以降言葉がなかなか出てこない。

「どうした? こんなところに来て」
「え? あ、私は、先輩に頼まれて開発部に……。途中、この部屋が目に入って、てっきり電気の消し忘れかと」
「ああ、そうなんだ。それはごめん。じゃあ、ここは閉めてもいいね」

 部長は笑って言うと、電気を消し、ドアをパタンと閉めた。それから私に背を向けて鍵を掛ける。

 部長がこんな時間にこんなところでなにをしてたんだろう?

「城戸さん?」
「あっ。じゃ、じゃあ、私は開発部に行ってきます」
「うん。お疲れさん」

 部長は私を横切って先に行った。少し猫背の後ろ姿を見つめて小さく首を傾げる。

 さっきの匂いは、もしかして……って思ったけれど、やっぱり部長ではないよなぁ。

 うーんと口を尖らせて考えている間に、匂いも徐々に記憶から薄れていく。
 私は諦めて、急いで開発部に向かった。


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