エリート専務の献身愛
浅見さんに聞いた宿泊先のホテルに勢いで来たものの、冷静になってみると、とんでもなく迷惑掛けているかもしれない。
それなのに、浅見さんは「どうぞ」と柔らかな顔で私を招き入れてくれる。
「あの、急にごめんなさい。仕事終わってないって、さっき電話で言っていたのに」
私が部屋に入ってすぐ、立ち止まって言ったことに、浅見さんは軽く笑い飛ばす。
「ははっ。今になってそんなこと言うの? 大丈夫。仕事はちゃんとやる。……なにがあったとしてもね」
確かに、笑われることをしている。
自分から押しかけておいて、『邪魔ですよね?』みたいなことを言うなんて、すごく面倒くさいやつだ。
自分に溜め息を吐いて首を垂れるも、後悔先に立たず。
まだ救われるのは、浅見さんが怒ったり呆れたりする様子もないことだ。
……可笑しそうにはしているけれど。
「とりあえず座って」
「いえ! 今日、私はもてなされるためにじゃ来たわけじゃないので」
背をシャキッと伸ばし、ぶんぶんと手を横に振る。
「オレを癒しに来てくれたんでしょ? だったら、座って少し話に付き合って」
でも、浅見さんに手を引っ張られ、簡単に負けてしまった。
浅見さんは狡い。警戒させないような優しい顔と声で、容易く思い通りに動かしてしまう。
アイボリーのふたり掛けソファまで連れていかれ、手を離される。私はソファの端に静かに浅く腰を下ろした。
「ごめん。こんなものしかないけれど」
そう言って、彼は備え付けの冷蔵庫に入れてあったらしい缶コーヒーをくれた。
「す、すみません……」
私って本当に浅はか。
いくら勢いで急いでいたからって、手ぶらできちゃうなんて。
飲み物とか、なにか軽食とか差し入れすればよかった。だって、今十時前だし、夜ご飯食べてたとしても、仕事大変だって聞いたんだから『夜食でどうぞ』とか言えたはずなのに。
つくづく、自分の気遣いのなさにがっかりする。
受け取った缶コーヒーを開けず、両手で持ったまま放心していると、浅見さんが私の手からそれを抜き取った。
思わず小声を漏らし、見上げる。