エリート専務の献身愛
「はい。どうぞ」

 私に再び戻された缶コーヒーはふたが開けられていた。
 浅見さんはベッドの淵に腰を下ろし、自分のぶんのコーヒーを開けてひとくち喉に流し込む。

 本当、なにからなにまで完璧なひと。
 私なんか、粗がありすぎて見ていて気になるんだろうなぁ。

 あまりの違いに身を小さくして視線を逸らす。その際、正面のデスク上に閉じてるノートパソコンが目に入った。
 画面は見えないけれど、ランプが光ってる。

 仕事もどのくらい残っているのかわからないし、終わる目処がついているのかも確かめていない。
 やっぱり、私が来たって邪魔はできても助けられることなんてなさそうだし……。

 なんか、会ってみたらいつもとそう変わりなさそうに思える。私の勘違いだったんだ。早いとこお暇して、仕事の邪魔しないようにしよう。

「あの……」
「瑠依は今日どうだった? 変わりなかった?」
「え。あ、はい。平穏に過ぎましたけれど、そのぶん、特に収穫もなかったというか」

 辻先生もいなかったし、と心で思うものの、なんとなく口には出せなかった。
 思い出したくないっていうのと、浅見さんに心配させたくないというのと。

 いや、本当は、辻先生の名前を出して、浅見さんがどんな反応するのか怖いから。

「あっ、そういえば今日、いつも怖そうだなぁって思っていた小児科の先生が、子ども向け番組の話で盛り上がって心底驚きました。だって、その先生って本当に見た目も怖くて。だから、そういう意味の収穫はあったりして……」

 話を逸らそうと今日の出来事を思い出したのはいいけれど、本来の目的を忘れて話し込んでしまった。
 ハッとして口を噤んだ私に、浅見さんはきょとんとして首を傾げる。
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