エリート専務の献身愛
「どうかした?」
「だって、私が話を聞きに来たはずなのに、聞いてもらってるほうになっていたので」

 私は肩を竦めてしゅんとする。

「いいんじゃない? オレは、とてもいい表情で仕事の話をする瑠依が好きだ」

 缶コーヒーに視線を落としていたら、温かい声が返された。
 少しずつ顔を上げていく。視界に入った浅見さんは、にこりと微笑んでいた。

「あ、ありがとうございます。でも、それ以上にかっこ悪いところも見られたり……」
「まぁ、仕事だからね。失敗するのは当たり前だし、それは普通だよ。瑠依だけじゃない」

 すぐさまフォローの言葉をもらって、なんだか改めて思うことがあった。

「失敗したり、つらいこともありますけど、こうして仕事を続けられるのは……浅見さんに『いい表情してる』って言ってもらえるのは、いい人たちに囲まれているからだと思うんです」

 浅見さんには、知り合って間もないのに仕事でもプライベートでも、トラブルになりそうな昨日の件でだって助けてもらっている。

 そして、私はこれまで、会社の気さくな先輩たちや優しい部長。紺野さん。瑛太くん。ほかにもいっぱいよくしてくれる人がいる。

 だから、私は頑張れているんだ。

 そういうことって、意外に日常で埋もれていってしまう感情だったのかもしれない。
 当たり前は、決して当たり前ではないことを忘れちゃいけない。

「瑠依は、仲間だと思っていた相手に裏切られたら……どうする?」
「え?」
「例えば信じていた相手に、裏の顔があったりしたら」

 突然投げかけられた質問が、ピンと来なくて目を丸くしてしまう。
 浅見さんを見れば、いつしかさっきの私と同じ、手元を見つめて難しい顔をしている。

 やっぱり、完璧に見える浅見さんにもなにか悩みはあって、さっき私が感じたのは間違いではなかったのかもしれない。
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