エリート専務の献身愛
「あ。でも、日本じゃなくてもアメリカでも、どこでも。私はきっと、浅見さんが頑張りすぎていると思ったら同じことを言います」

 次々と発していても、浅見さんはあれから口を開かない。
 抱き寄せているから、顔も見れない。

 少しの間、室内はしんと静まり返る。
 一度沈黙になってしまったら、次に話始めるのは困難だ。

 すると、胸の中からぽつりぽつりと聞こえてくる。

「……今まで、誰かに『頑張らなくてもいい』なんて言われたら、躍起になって、反抗するように頑張り続けると思う」

 その声は、さっき電話で聞いたときと同じ、どこか弱々しい。
 私は、浅見さんの心の声をひとつひとつ丁寧に聞き、胸にしまっていく。

「でも瑠依が言うからだろうな。素直に聞けて、心が軽くなるのは」

 彼はそう言って、私の腰に手を回した。

 『心が軽くなる』って言ってくれた。
 本当かな? だとしたら、すごくうれしい。

 感極まって、ただたどたどしく頭を撫でるだけでなにも言わなかった。

 どのくらい経ったのだろう。きっと、数分のことなんだろうけれど、ずいぶん長い時間このままでいる気がする。
 さすがに困惑しはじめたとき、浅見さんが私の中で小さく動いた。

「あ、あの」

 心臓が跳ねる。

 仕事の邪魔をしないって決めてきたのに、このままそんな流れになるだなんて。

「浅見さ……きゃ!」
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