エリート専務の献身愛
「瑠依」

 熟睡だと思っていたから、かなりびっくりした。
 息を止め、目を見開く。

 ……ね、寝てる?

 浅見さんを見ても、瞼は閉じたまま。
 そのあと数秒見つめ続けていても変化はなくて、寝言が決定された。

 でも、寝言って……。

 思わず顔を真っ赤にして、口元を押さえる。

 ほんの一瞬の夢だったとしても、寝ながら名前を呼ばれたことがすごくうれしい。

 私は迷いながらも、もう一度浅見さんの枕元に足を向けた。
 寝ている顔も綺麗だと改めて観察し、こっそりと唇を寄せる。

 軽く重ねるだけのキスに、こんなにドキドキしているのは眠っている間に自分から口づけた背徳感かもしれない。

 今度こそ部屋を出ようと静かに歩く。

「……ん」

 また浅見さんの小さな声が聞こえたけれど、今度は聞き取れなかった。

「お疲れ様です」

 小声で言うと、そっとドアを閉めた。

 終わっていない仕事もあるのだろう。でも、少しだけ、いい夢を見ていたらいいな。
 その夢に、もう一度私が出ることをこっそりと願って。

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