エリート専務の献身愛
 元々、彼女に敵対心を抱いているわけじゃなかった。ただ、浅見さんの側にいる人ということで不安に思っていただけで。
 だけど、どうやら向こうは私とは違うらしい。

「わたし、彼の一番の理解者だと自負しておりますので」

 初対面でもわかる。私に対していい感情を持っていないということくらいは。

 レナさんの言葉の裏には、『彼のことをよく知りもしないくせに』という思いが隠れている気がした。

 曲がりなりにも営業を続けて三年経つくせに、咄嗟に会話が浮かんでこない。
 だんまりになってしまった私に、レナさんはさらに一歩近づいてきた。

「城戸さん。わたしからお願いがあります」

 少し見上げて、視線を合わせる。
 透き通るような碧い瞳を前に、呼吸の仕方さえ忘れてしまいそうになる。

「彼は忙しいんです。仕事に差し支える行動は控えていただけません?」

 うまく言い表せない感情が溢れ出す。
 彼への気遣いが足らないと言われて恥ずかしい思いや、控えてと言われ、会えないことへの寂しさや。

 初対面の私に向かって、自信満々に『一番の理解者』だと豪語できるほど堂々としている彼女に対して、劣等感と嫉妬が入り乱れる。

「総のスケジュールは真っ黒なの。サポート役はわたし。だから、あなたは自分のことにだけ専念していて結構よ」

 どう考えても勝ち目はない。だって、レナさんが浅見さんと一緒に過ごしてきた時間が長いことは、どうやっても覆すことのない事実。

 こんなに真っ直ぐ自分の足で立っているような人に、今の私が言い返すことなんてできない。

 小さく唇を噛み、目線を下げる。

 彼女は、「どうぞお気をつけて」とまで声を掛けてくれた。

 外に出て、レナさんの名刺に目を落とす。自分の名刺を渡すことも忘れていた。

 余裕な彼女の雰囲気に、元々ない自信がさらに萎んでいくのを感じた。

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