エリート専務の献身愛

 仕事なんだから、頭を切り替えなくちゃいけない。
 わかっていても、今日は一日どうしても心はべつのところにいったままだ。

 今日最後の訪問先、月島総合病院の前で足を止めると、もう何度目かの重い溜め息を吐いた。


 瑛太くん、元気に学校行ってるかなぁ。
 小児科の案内板を横目に、ランドセルを背負って眩しい笑顔を見せる瑛太くんを想像する。

 あのときもらった手紙は、手帳の中に大事にしまってある。
 失くさなくて本当によかった。

 そこまで考えると、自然とあの日の出来事から辻先生を思い出してしまう。

 大丈夫。だって、今日も不在だし。週末挟めばこの動揺も落ち着くはず。

 深呼吸を一度して、西病棟にある皮膚科へ移動していた。すると、不意に肩を叩かれる。

「城戸さん」
「つっ……!」

 振り返るとそこにはノーネクタイ姿の辻先生がいた。
 まったく心の準備もしていなかったから言葉が出て来ない。

「やっぱり、城戸さんは背も高いしひと際目を引くからすぐわかったよ」

 彼は片側の口端を上げ、クッと笑う。

「辻先生は、学会にご出席されていたのでは……」
「うん。もう終わったよ。帰る前にちょっと医局に寄ってきたんだ」

 確かに、同じ階の東病棟は辻先生のいる泌尿器科だ。
 二度と会わないというわけにはいかないって理解していたけれど、今鉢合わせるなんてあまりに突然すぎる。

 気まずい思いで目を泳がす。
 それに比べ、辻先生は狼狽える様子もない。

「ところで、彼氏は元気?」
「え……」
「浅見って言ってた、彼だよ」
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