エリート専務の献身愛
「いい香りがします。香水ですか……?」

 後ろから抱きしめられていてよかった。
 浅見さんの顔をまともに見る自信がないから。

 視線を落とし、緊張しながら答えを待つ。この時間がものすごく心臓に悪い。

 答えを聞きたい。だけど、聞きたくない。

 往生際の悪いことを思っていた矢先、ついに答えを耳にした。

「こっちでは嫌われるものなのかと思ってつけてないけれど、カバンに匂いがついていたせいかな?」

 目を大きくさせて、ちらりと顔を後ろ側に向ける。彼は、自分の肩口に鼻を近づけているようだった。
 私は掠れる声でさらに言う。

「今まで、あまりない……いい香りだったので……」
「ああ。日本にはないのかも。特に世界的に有名なブランドのものではないから」

 浅見さんは何気なく答えただけの言葉。私にとっては、衝撃的な言葉。
 胸が急に締め付けられて、苦しくなる。

 そうはいっても、百パーセント私の想像通りとは限らない。
 あの日、階段から廊下でした残り香が彼のもので、うちのオフィスにいたのは調査をしていたからだなんて、そんなこと……。

 都合のいいように心の中ではフォローしながら、実際は核心をつくようなことを口走っていた。

「へぇ。珍しいものなんですね。それなのに、うちの会社で同じ匂いがした気がして……。じゃあ、私の勘違いですよね?」

 浅見さんは、微動だにしない。
 驚いて思わず声を漏らすでも、抱きしめている手を離すでもない。

 ただ、ふたりの時間が止まったよう。

 お願い。なにか言って。
 カッコ悪くてもいいから、なにか言い訳をして――。

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