エリート専務の献身愛
「そうか。もう知っているんだね」

 私の願いも虚しく、あっさりと浅見さんは言った。
 その声色からは、彼の心情が読み取れない。言葉に乱れもみられなくて、呆気ない返しだった。

 どういう気持ちでいるんだろう。

 『バレた』って焦ってもいないなら、『とうとう気づかれたか』とでもいったようにある程度予測はしていたのだろうか。
 だから、動じる様子が一片もみられないのかもしれない。

 泣きたい気持ちをグッと堪え、唇を噛む。
 浅見さんはゆっくり腕を動かし、私の両肩に手を置いた。身体をクルッと回され、正面から向き合う。

「でも、香りだけだったなら瑠依はここまで来なかっただろう? レナに聞いた?」

 どう頑張っても顔を上げることなんかできない。
 今、彼の顔を見れば、簡単に涙腺が決壊するってわかっている。

 頷くことも困難で、ただひたすら眉根に力を入れて堪える。

「どうりで、レナの様子が少しおかしかったわけだ」

 浅見さんは小さく笑う。

 取り乱すこともなく、笑う余裕さえあるっていうことは……。

 俯いたまま、浅見さんとのことを細切れに思い返す。

 いつか、まだ出会って少ししか経っていない時に『瑠依はやっぱり優しいね』って言われたことがあった。
 あのとき、『やっぱり』って言葉にちょっと引っかかったけれど、深く気にせずスルーした。

 そういう情報も、なにかしらで調べていたってこと?
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