エリート専務の献身愛
頑張ったって、なにひとつ報われない。
気づいたら自分の家に戻っていた私は、ベッドに寝転がり、茫然と天井を見つめていた。
もう……なにもしたくない。誰とも会いたくない。話したくない。
重い腕を動かし、額に乗せ瞼を閉じる。
このまま消えてなくなりたい。全部、仕事もなにもかも放棄して。
現実から背くように固く目を瞑り、心の中で何度も念じるように繰り返す。
考えたくないと思う意思とは裏腹に、浅見さんとの思い出が勝手にあふれ出す。
――『つらい日だってあるはずなのに、いつも背筋を伸ばして、意思は前を向いている――すごく綺麗だと思った』
私、バカかな。
こんなときにも、彼の言葉を思い出して、それに背中を押されるなんて。
静かに目を開け、自分の手を握る。
誰も見てくれてなんかいないと思っていた。
浅見さんは、そんな私にいつも笑顔を向けてくれていた。何度も『頑張ってるよ』って励ましてくれた。
だから、せめて今までの頑張りくらいは自分で認めてあげて、続けなきゃ。
「仕事、しよ」
ひとつでもふたつでも、恋くらいなくなったって生きていける。いや、生きていかなくちゃ。
そのためには、きちんと仕事をして、誰かに寄り掛かる必要のないくらいひとりで立っていられる強さを身につけなくちゃ。
自暴自棄になりかけたけれど、どうにか持ち直して仕事に向かう。
結局、今の私を動かす言葉は浅見さんのものだ。
騙されていたかもしれない。けれど、私はもう、彼を本気で好きになってしまった。この事実は変えようがない。
実質的な距離は取れたとしても、心の距離は完全に離れられずそのままだ。
私の心が彼から離れるのには、まだ時間が掛かる。
現段階はそれでも仕方がない。少しずつ、自分の言葉で動ける努力をしていこう。
現状と気持ちを精査して、ちょっとだけ落ち着いた気がする。
けれど、なにもしていないとつらいことを思い出して押し潰されそうになる。だから、土日はずっと仕事に専念し続けた。
……彼からの連絡は、ない。