エリート専務の献身愛

 パンプスに通した足は、いつしか絆創膏の出番はなくなった。
 きっと、足が新しいパンプスに慣れてきたからだ。

 心もたぶん、これと同じ。新しいことに、徐々に適応していく。

 会社から出てひとつめの横断歩道前で、俯きそうな顔を意識的に上げる。渡りながら今日のスケジュールを頭の中で確認し、渡り終える。

 足を止め、その先に見えるカフェテラスを見て深呼吸をした。
 そして、今日も変わらず確かめる。

 携帯。何個かの飴玉。それと、無意識にカフェに彼の姿がないのも確認してしまっていた。

 こんなふうに浅見さんを探すことだって、すぐにしなくなる。

 短期間のことだったし、数か月もすれば記憶も薄れて現実だったかどうかすらわからなくなるかもしれない。
 目の前のことに熱中していたら、過去を思い出すことすら忘れるかも。

 だったら、今の私がすべきことはひとつ。

「よし」

 ひとり小さく頷いて、パンプスを鳴らして歩いて行く。
 仕事のことだけを考えるようにして、カフェを通り過ぎていった。
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