エリート専務の献身愛
「おはようございます」
「ああ、おはよう」

 この間訪問した個人病院の小児科にやってきた。

 四十代後半で、鋭い目つきの強面先生。声も低いし、言葉も少ない。さらには、いつもマスクをしているから表情があまり読み取れない。
 どうしてそんな人が小児科医なんてしているのかというのが、正直なところだった。

 だけど、先生が実は子煩悩で、日々自分の子どもだけでなく、来院する子どものことを考えている人なのだと看護師さんから聞いた。

 恐る恐る仕事とは関係のない話題を振ってみたら、今まで聞いたこともないくらい流暢に言葉が出てきて驚いたのは、ついこの間の話。

「お忙しいと思いますので、べつの資料だけ置いていきますので」
「この間の」
「え?」

 前回話が盛り上がったからって、今回グイグイ営業かけようとは思っていなかった。だから、資料と販促物のクリアファイルだけを渡して帰るつもりだったんだけれど。

「進めていたやつ。使ってみてもいいよ」
「えっ……ほ、本当ですか?」

 突然ぶっきらぼうに言われ、戸惑いを隠せない。
 棒立ちしている私に、先生はパソコンを弄りながら抑揚のない話し方で答える。

「ぼくはいつも、怒っているようには見られるけれど、嘘ついてるようには見られたことはないんだけど」

 機嫌を損ねてしまった!?

 せっかくの話がふいになるかもしれない、と不安が過る。
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