エリート専務の献身愛
「……だけど、私」
「あ、ごめん。僕は名刺まだなくて。なにか書くものある?」

 私はポケットから出した名刺入れを握って切り出し掛けた。が、運悪く彼の言葉が重なって掻き消されてしまう。

「え、と……手帳なら持ってます。あと、これ」

 とりあえず約束通り、こちらの連絡先が記載されている名刺を一枚渡し終え、カバンの中から手帳を取り出す。
ペンホルダーからパール色のミニボールペンを抜き取り、手帳のメモページと共に渡した。

 連絡先を書いている彼の顔を見上げ、さっき言い掛けたことを切り出すタイミングを探る。
サラサラとペンを走らせ、「はい」と手帳を返される瞬間に口を開いた。

「あの」
「あ! 名刺はないけど、これはポケットに入れたままだったみたいだ」
「え?」

 またもや出鼻を挫かれ、さすがに心が折れ掛ける。
 彼はポケットからなにかを出すと、それを私にくれた。

「僕の身元に不信感抱いたでしょ?」

 なんだろう……?

 一枚の紙に首を傾げ、それを受け取って視線を落とした瞬間に搭乗券だということがわかった。

 水曜日……シアトルから成田……ファーストクラス!?

 目を疑って何度も文字を追い掛けるけれど、間違いなくそう記載されている。

「名刺代わりにそれを預かっていて。いつか、本物と交換するから」

 彼は、私が両手で持っていた使用済みの搭乗券にトンと軽く人差し指を置いて微笑む。
その指先すらも綺麗だ。

 無意識に指から腕を辿り、彼の顔を上目で見る。
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