エリート専務の献身愛
「城戸さん。この間くれた情報資料よかったよ。それで、今度はまた別のものが欲しいんだけど」
「お役に立ててよかったです。また、纏めてすぐお持ちしますね」
「いつもありがとう」

 仕事はいい感じなはずなのに、心に穴が開いたよう。
 浅見さんの存在が大きすぎる。

 なんとなく、答えが見えてきた。

 『ありがとう』が胸にしみわたる。
 好きな人が私を必要としてくれている。それって、心にこんなにも大きな影響を与えるんだ。


 帰り際、浅見さんと初めて言葉を交わしたカフェの前を通った。

 ここで飴玉が散らばって、拾ってくれた。

 あのときにはもう、私の素性は知っていたのかな? それとも、名刺を見られたときに部下だってわかったのかな。
 もう、今となってはどちらでもいいけれど。

 少し涼しくなった風を、すぅっと鼻から吸い込んだ。

 約束の時間まで、あと三時間。
 大丈夫。きっと、面と向かっても迷わず言える。

 ポケットに入っている飴玉を手のひらにとった。もう、不要なものだったはずだけれど、今ではお守りのようなものになっている。

 小さな袋をきゅっと握り締め、胸にあてて前を見る。
 青信号が点滅しているのを見つけ、私は迷わずに走り出した。
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