エリート専務の献身愛
 待ち合わせは浅見さんが宿泊しているホテルのラウンジ。
 小走りで辿り着いたときには、すでに浅見さんはカウンター席についていた。

「お待たせしてすみません」
「いや。オレが早くついただけ」

 軽く首を横に振る浅見さんの手には、ジントニックがあった。私もカクテルをオーダーし、隣に座る。
 ふたりで同じ方向を見つめるだけで、会話が止まってしまった。

 なんとなくぎこちない空気の中、口火を切ったのは私。

「あっ、浅見さん。仕事は一段落したんですよね……?」
「うん」
「そうですか」

 あっという間に会話は終了。しかも、浅見さんの答えに、明日日本を発ってしまうということが一気に真実味を増す。
 そこでオーダーしていたお酒が来て、浅見さんはスッとグラスを寄せてきた。

「お疲れ様」
「は、はい。お疲れ様です」

 グラスを軽く傾け、音を鳴らす。そのまま喉に流し込み、静かにグラスを戻した。

 話すことはちゃんと考えてきたけれど、やっぱり緊張する。それに、浅見さんの雰囲気もいつもとは違う気がするし……。

 左隣をこっそり盗み見る。

 今、なにを考えているんだろう。

 落ち着かない鼓動をごまかすように、置いたばかりのグラスをまた手に持った。もう一度口に運んだとき、浅見さんが小さく笑いを零す。

「レナが言っていたよ」
「え? なにをですか?」
「『生真面目なのも、ある種の魅力かもしれない』って。一昨日、オレのスケジュールをわざわざレナに確認したんだって?」

 目を瞬かせ、浅見さんを見る。
 昨日、浅見さんのところへ行くにあたって、事前にレナさんに電話したことかと少し時間を置いて理解する。
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