エリート専務の献身愛
距離と愛情
真っ暗な中、遠くにぼんやり光が見えた。
重い足を引きずるように光を目指すと、そこには彼の背中が見える。
――これは夢だ。
そう気づいたものの、胸が潰れるほどの苦しさはあまりにリアルで顔を顰める。
ああ。そうだ。彼が私の前から去ったのは、夢じゃない。現実だった。
差し出してくれた手を取ることができず、俯いていた私。
彼は、私が拒絶していると受け取ったのだろう。当然だ。
ひとこと、『わかった』と言って、私に背を向けて行ってしまった。
あのとき、すぐに追いかけていたら手は届いたはずなのに。
彼の名を呼べば、足を止めてくれたかもしれないのに。
彼との距離が、もう近づくことは、きっとない。
……でも、その道を選んだのは、ほかの誰でもない、私だ。
あれから約二か月が過ぎようとしている。
「部長! 今度の説明会なんですが」
先輩がそう言って部長のデスクへ向かって行く。
『部長』と呼びはしても、私が入社してからずっと一緒だった戸川部長ではない。今は四十代前半という若めの部長だ。
あの約ひと月後に、戸川部長は会社を辞め、それから会うこともない。
ほかに変わったことと言えば、浅見さんが帰ってしまった直後。月島総合病院の辻先生が、別の病院へ行ってしまった。
なにやら噂だと、素行の問題が露呈して院長の耳に入り、提携先の小さな病院に回されたらしい。
でも、今までそういうよからぬ行動をしていたのは、周りの看護師さんたちは知っていたみたい。それなのに、私の件のあとにそうなったっていうのは、もしかしたら浅見さんがなにかしてくれたんじゃないかな、なんて思っている。
まぁ、おかげで今日まで仕事はしやすい環境だ。