エリート専務の献身愛
「城戸さん。今日も部長が飲みに連れてってくれるみたいだけど、行かない?」
「あ、私、前回ごちそうになりましたし、今日は仕事が残っているので」
「そう。じゃあ、また来週ね」
「はい。お疲れ様です」
ひとりになった部署でカタカタとキーを叩く。
毎日変わらない仕事。朝から外に出ずっぱりで、夕方帰社して書類作成。
営業の成果も劇的に変わったわけではないけれど、営業先で少しずつ信頼されているような感じはする。
薬を採用してもらったときのあの喜び。あれをまた味わいたい。
もちろん、患者さんのためって思うことを忘れないようにして。
書き終えた資料を保存し、「ふぅ」と息を吐く。
ふとした瞬間、今でも考えてしまう。
今頃、浅見さんはなにをしているのかな、なんて。
あの日以来、一度も顔を合わせるどころか声すら聞いていなかった。翌日、日本を発つとは知っていたけれど、どの便かも知らない上、平日だったから見送りになんていける隙がなかった。
もっとも、見送りになんていけるような精神ではなかったけれど。