エリート専務の献身愛
 やや棘のある言い方だったかも。
 ちょっとやりすぎたと思うものの、反省までには至らない。

 今までの私の態度と違うと察したのか、加藤さんは一歩下がって愛想笑いする。

「え、あー、そうなんだ。あっ。予定あるんだった。じゃ、お先に」

 そそくさと帰っていったのを見届け、重い息を吐いた。

 ああいうの、本当どこにでもあるんだなぁ。そんなに妬ましいのかな。私が女だからわからないだけなのかな。

 どこかモヤモヤした気持ちでパソコンを見つめ、ふと、右肩に触れる。

 ……恥ずかしい。私、どれだけ浅見さんを求めているの?
 肩に置かれた手が、彼だと思ってしまった。彼だったら……と、期待した。

 今回だけじゃない。

 朝、家を出るとき。カフェを通り過ぎるとき。病院をまわっているときも。
 浅見さんの気配を探し、いるわけがないと肩を落とし、胸が痛くなる。

 不意に、ぽたっとデスクの上に涙が落ちた。
 滲む視界でどれだけ彼の影をさがしても、見つからない。

 私、もう、ダメだ。

 グイッと涙を乱暴に拭って携帯を手に取った。人差し指を画面に置く直前、動きが止まる。

 電話じゃダメだ。顔を見て話したい。会いたい。

 手早くパソコンで航空券の検索をする。
 感情のストッパーが外れ、暴走しているのは頭の隅で理解している。でも、突っ走り始めた今、すごく心が軽い。

 シアトル行き……あった。いちばん早く着くチケットで……。

 パソコン画面に顔を近付けて、夢中になって検索する。

 帰りのことはまだ考えない。とりあえず、シアトルに行けたらそれでいい。溜まっている有給使って……。

「どこへ行くチケットを買おうとしているの?」
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