エリート専務の献身愛
「瑠依……。少し、痩せた?」
「え? や、わかんない……」

 そんなことに気づく暇もないくらい、仕事ばかりしていた。
 浅見さんを思い出すこともできないように、忙しくしてごまかしていた。

 胸が早鐘を打つ。高揚する気持ちのなかに、一抹の不安を抱える。

「今回は、いつまでいられるんですか……?」

 予期せぬ再会はドラマティックで、舞い上がる。
 そのぶん、また別れを迎えるなら、絶対に立ち直れない気がして。

 浅見さんの袖口を軽く握り締め、眉根を寄せる。

「どうかなぁ。今度こそ、瑠依の首を縦に振らせるまでずっと、かな」
「そんな冗談……」

 とぼけるような答え方に対し、笑う余裕も持てない。

 会えたのはうれしいけれど、離れるときを思うだけで胸が張り裂けそう。また目の前からいなくなるのだとブレーキを掛けておかなければ取り返しがつかなくなる。

 唇を引き結び、別れの覚悟を懸命にしようと試みる。
 無意識に力が入っていたようで、浅見さんはそっと手を重ね、私の手をゆっくり外した。そして、椅子をくるりと回転させる。

「冗談じゃないよ。本気」

 真正面から向き合って、真剣に言われる。

「だって、お仕事は……。日本支社に異動なんて、耳にしていないです」
「そうだろうね。辞任したから」
「じっ……! え? ど、どうして?」

 ありえない返答に吃驚して声を上げた。
 唖然とする私に、浅見さんは指を二本立てて見せる。

「理由はふたつ。昔から日本に憧れていて、実際に訪れて気に入ったから。そして、もうひとつは」

 ごく自然に重ねられた唇。
 たった数秒の出来事に、まるで息吹をもたらすよう。

「瑠依の側にいたいから」

 大変なことをさせてしまったって混乱している。けれど、それよりも、自分への思いの大きさを感じ、うれしいだなんて思ってしまった私はダメな女だろうか。

 彼の人生を左右するほどのことをさせて、ダメな女に決まっている。

「そ、そんな理由で」

 申し訳ないし、責任を感じちゃう。
 浅見さんはまったく平気な様子で、勝気な笑みを浮かべる。
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