エリート専務の献身愛
「十分な理由だよ。だって、オレの人生は仕事に捧げるためにあるわけじゃない。自分自身のためにある」
「でも、そのためにたくさん失うものが」
「全てを取りこぼさず生きていくことなんて、絶対にありえない。だけど、瑠依だけは手放すなんて考えられないから」
そうだ。私は、浅見さんのこういうところに惹かれた。
自信を持っていて、常に前しか見ていない瞳。失敗や後悔をしたらどうしようだなんて、微塵も考えていないような力強い生き方。
彼のストレートな告白に、普段から不安になる性格の私は眩暈がする。
「もう、なんだかよくわかんない……」
「どうして?」
「浅見さんが大切なもの投げうって、私のところまで来てくれる理由が。私、なにもしていないのに。平凡な……どちらかというと冴えない社員だったのに」
浅見さんに気持ちを伝えられては、常々思っていた。
そこまで大きなものを天秤に掛けるほど、私には価値があるのかと。
なにひとつ魅力なんて思い当たらないから、プレッシャーすら感じそうで。
「ちょうど、さっきみたいな感じだったな」
「さっき?」
「実は、さっきの男との会話あたりから廊下にいたんだ。たまたまタイミング悪く、あの社員の方が先に瑠依のところへ行ってしまって」
加藤さんのこと?
きょとんとして見上げる。
「一年前に初めて日本に来たとき、オフィス内で男女の社員を見掛けた。何気なく会話が耳に入って、つい聞き耳を立ててしまって」
「一年前?」
「そう。日本支社へはちょうど一年前に来たんだ」