エリート専務の献身愛
連れて来られたのは都内のマンション。
立派なエントランスを抜け、二十二階に辿り着く。
きっとここは、これから浅見さんが住む部屋だ。
「すごく綺麗なところですね……」
なにもかもが私には無縁の高級な雰囲気で、無意識に口から零れ出た。
「思ったよりいいところで、オレも身の引き締まる思いだよ。ちゃんと仕事しなきゃなぁって」
冗談交じりに言われたときに、いまさらながらハッとする。
「あ、そうだ。お仕事って……」
さっき、浅見さんは会社を辞任したって言っていた。完全に辞めたってことだよね? 新しい仕事はもうあるんだろうか。
もし、なにも決まっていなかったら、なんか責任を感じてしまう。
浅見さんが鍵穴にキーを挿し、玄関のドアノブに手を添える。
「あ、言ってなかった。こっちで独立して、CIOコンサル事業をするんだ。ホープロエクスのインフラを大方終わらせるのに二ヶ月掛かっちゃって。引き継いではきたけれど、顧客としてまだ繋がっている感じ」
「CIOコンサル事業?」
「そう。今、結構需要あるんだよ。場所は正直アメリカと日本と迷っていた時期はあったけれど、元々日本に憧れていたし、瑠依のおかげで決断するいい機会をもらった」
彼は、中に入りながら、動かない私に気づいて「瑠依?」と首を傾げた。
屈託のない笑顔を向けられ、見惚れてしまってボーッとしていた。
慌てて後に続く。
「今日引っ越してきたばかりで殺風景だけど」
二十畳以上ある広いリビングに入り電気を点けると、いくつかダンボールが重ねられていた。
カーテンはまだ掛けられていないけれど、テーブルとソファは置いてある。きっとベッドルームにはベッドも運ばれているんだろう。それなら、とりあえずひと晩ふた晩くらいは大丈夫そう。
浅見さんはスタスタとダイニングテーブルまで行く。来る途中、いつものカフェでテイクアウトしてきたコーヒーを置いた。