エリート専務の献身愛
 ひとしきり焼き肉を食べ、レナさんはタクシーに乗っていった。

「まったく。最近、仕事後の食事はこのパターンが多いな」

 浅見さんは溜め息交じりに、やれやれと言った様子で頭を垂れる。
 私は特に不満はなく、むしろ、浅見さんの新たな一面が毎回垣間見えて楽しい。

 疲れている浅見さんの後ろで、くすくすと笑いを漏らす。

「ま、瑠依が楽しそうなのが救いだな」
「レナさん、まだこっちで親しい人できないって言っていたから」
「わかってる。瑠依には付き合ってもらって悪い」
「全然! 毎回本当に楽しいですから」

 今日も、浅見さんとレナさんのやりとりを思い出しては笑ってしまいそう。
 こんなふうに日々を過ごせるなんて、思ってもみなかった。

 浅見さんは、日本で起業したわけだけれど、実はそれにレナさんも誘っていたらしい。
 私が知ったのは、再会した翌朝のこと。

 ひとりじゃやっぱり大変だろうし、信頼しているレナさんが必要だと考えたと話してくれた。

 それを知って、まったく嫌な気持ちは湧かなかったし、正直、安心した。
 どうやっても、仕事上、彼を支えることは私には難しいと思うから。

「ところで、なんかあった? 仕事のこと?」

 少し前をひとりで思い出していると、顔を覗き込まれて動揺する。

「あ。いえ、そこまで大したことじゃないんです。最近話すようになったドクターが、ゴルフやテニスの話ばかりで」
「ああ。まぁ、営業はすぐ結果に直結はしないし」
「私、全然スポーツ詳しくなくて」

 つい夢中になって、浅見さんの返しをまともに耳に入れず、なんなら言葉を遮ってしまった。
 はた、と我に返り、顔を上げる。

「瑠依……? もしかして、契約がどうとかじゃなく、純粋に会話ができないことを気にしている?」
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