エリート専務の献身愛
 驚くことが起きたのは、週末のこと。

「あっ、浅見さん……! さっきレナさんからもらったものを今、見たんですけど!」

 仕事終わりにレナさんに呼ばれて少し会った。そのときに『総から』と受け取った封筒を帰宅するなり確認して、吃驚した。
 慌てて携帯を手に取り、今に至る。

『ああ。本当は直接渡したかったんだけれど、時間が無くて』
「いえ、それはいいんですけれど。これ、どういうことですか!?」

 浅見さんはいつもと変わらぬ穏やかな話し方。それに比べ、誰が見ても動揺の声しか出せない私は、部屋の中で立ち呆けたままだ。

 それもそのはず。
 今、手人持っているものは明日発の北海道行きのチケットだからだ。

「今週末は、瑠依も休みだって聞いたから」
「いや、私は確かに休みです。でも、浅見さんは今北海道にいるんでしょうけれど、お仕事で行っているんですよね?」
『そう。でも、仕事は今日だけ。明日と明後日はオフ』
「えっ。じゃあ……」

 もしかして、明日からの土日を北海道で一緒にって初めから考えて?

『ひとりで移動させてごめん。帰りは一緒に帰るから。空港で待ち合わせよう』
「ええぇっ!?」

 バタバタと出張が決まったとは聞いた。だから、事後報告になってしまったんだろうけれど、いきなりのことに信じられない。

『だって、約束したし』
「や、約束? そんな、北海道に行くような話してました?」

 上擦る声で尋ねると、彼はさらりと答えた。

『ゴルフやってみようかって』
「なっ……」
『ゴルフと言えば北海道って聞いたから。なんか、出張ついでになっちゃって申し訳ないけど、いいタイミングかなーって』

 じょ、冗談でしょ……?

 つい心でそう思う。確かにこの間、そういう話をしたのは覚えている。でも、まさかそんな本格的な話になるなんて。

 やっぱりなにかの冗談じゃ……ない。だって、手元にはチケットがある。

『あっ……と。ごめん。仕事終わらせてしまうから、今日はこれで』
「え。あ、はい」
『明日待ってる』

 通話を終えて、茫然とチケットに目を落とす。

 こんなサプライズ、されたことなんかない。いや、周りで聞いたこともない。
 片道分の航空券。帰りのぶんは、きっと浅見さんが持っているんだ。

「はぁ」

 ようやく事態が整理できてきて、息を吐く。

 本当、考えられないことばかり。

 出会ったときも、急に食事に誘ったり、キスしてきたり……。だけど、どれも困惑はしたものの、嫌だと思ったことはない。
 それは、今回も例外じゃなく。

「準備しなくちゃ」

 突然の旅行に戸惑いながらも、すでに楽しみな気持ちが私の中を占めていた。
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