エリート専務の献身愛
 そうして、あれからバタバタと荷造りをし、翌日は十時の飛行機に乗った。

 勢いできちゃったけど、会ったらまずなんて言えばいいんだろう。
 細かいことを考え始めたら止まらない。

 飛行機が着陸して手荷物を取り、出口に向かう。すると、すぐさま名前を呼ばれる。

「瑠依!」

 私服の浅見さんを見て、本当にオフなんだと改めて思った。

「あ、お、お疲れ様です」
「はは。なに? 仕事みたいなよそよそしい挨拶して」

 片眉を上げ、可笑しそうに笑う顔は初めてなわけじゃない。だけど、会う場所が違うと、なにもかも新鮮でドキドキしている。

「すみません……。えーと、これからどこへ?」

 北海道に行くっていうことだけで、詳細はほぼ聞かされていない。強いていうなら、ゴルフをするってことだけだけど……。もしこのまま直行するなら、着替えるところとかあるのかなぁ? 素人でも大丈夫なのかな?
 それについては無知すぎて不安が尽きない。

 想像だけで緊張し、視野が狭くなる。そこへ、浅見さんは私の小さなキャリーケースをさりげなく取った。

「オレが持つよ。今回は時間も限られているから、遠くへは行けなさそうだね。北海道は、日本の中では広いようだから」

 そうか。私は東京を基準にして比べるから、かなり広い場所と思うけれど、浅見さんはアメリカから来たから。

「瑠依は行きたかったところとかある?」
「えっ。いえ、急だったから……特には」
「あ、そっか。ごめん」

 彼は軽く頭を掻いて、苦笑意を浮かべる。それから、プランを教えてくれた。

「クライアント先からちょっと聞いた感じだと、札幌経由して小樽あたりがいいのかなって」
「小樽!」
「興味ある?」
「高校のときに行ったことはあるんですけど、昼間だったから……。夜の小樽を歩いてみたいなぁって」

 修学旅行を思い出す。
 べつに甘い思い出とかはなかったけれど、友達と十分楽しんだ記憶。

 自由時間はあっても、土地勘もなかったし、案外時間も少なくて。
 そんなことが蘇り、わくわくする。

「じゃあ決まったね。行こう」

 不意に顔を上げたら、浅見さんがうれしそうに笑っていた。
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