エリート専務の献身愛
 その後は、札幌に無事到着し、大通公園を散策する。

 天気に恵まれて、すごく心地がいい。
 いつの間にか繋がれている右手。べつに初めてでもないし、見られているわけでもないのに、なんだか気恥ずかしい。

「あっ、前に来たときも、鳩がいっぱいでした!」
「平和の象徴だね」
「懐かしいなぁ。もう何年前になるのかな」

 噴水を遠目に見て、過去に遡る。

「……瑠依は修学旅行(スクールトリップ)はどんなふうに過ごしたの?」
「え? うーん、細かくは覚えてませんけど、友達とただ歩き回っていたような感じですよ」
「ふーん。女の子?」
「はい。四人で」

 質問に全て答えると、突然浅見さんが黙り込む。
 不思議に思って顔を窺うと、パッと目を逸らされた。

 なにか変なことでも言っちゃったかな? でも、思い当たることがないんだけれど……。

「いや、ごめん。急になんか……やきもち。同じこの場所を、べつの誰かと手を繋いで歩いたのかなぁって」

 口元を手で覆い、珍しく少し照れた表情で言われ、私のほうが顔を真っ赤にしてしまう。

「そっ、んなこと……なにも、なかったですから」
「そっか。学生の瑠依にも会ってみたかったな。きっと可愛かったんだろうね」

 やきもちを焼かれたり、ストレートに思いを伝えられることなんて今までにない。

「瑠依?」
「……見ないでください」

 絶対、今、私、浅見さんのことが好きって顔を前面に出してるはずだ。

「私、今、すごく間抜けな顔になっちゃってる……」

 誰に見られなくとも、浅見さん本人に見られるのは、もっと恥ずかしい。
 いい歳して、ちょっとやきもちとか言われただけでこんなふうになるなんて。

 一瞬、目が合った。私はバッと顔を下げ、俯く。すると、グイと腕を掴まれて、脇の木陰に隠される。

 なにが起きたのか、と目を白黒させて浅見さんを見上げた。軽く眉を寄せ、緩みそうな頬を堪えるような、余裕のない表情を向けられる。

「その顔。絶対、ほかの人に見せたくない。可愛すぎる」

 浅見さんはそういうと、私をしばらく囲うように甘く拘束した。
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