エリート専務の献身愛
 来た道を戻る。せっかく夜の小樽を散策していてるのに、お寿司屋さんからずっと微妙な空気。

 なんだろう。思い当たることと言えば、すーちゃんのことしかないんだけど……。

 昼間、外を歩いているときは繋いでいた手が今は淋しい。
 俯きながら、浅見さんの一歩後ろを歩く。

 少し歩き進めたところで、足元に色とりどりの影があることに気づいて足を止めた。
 そこは、隠れ家のような雰囲気のバー。店先のランプがガラス工芸のもので、オシャレだ。

 ステンドグラスみたい。夜だから余計に綺麗。

「入ってみようか?」

 久方ぶりに浅見さんの落ち着いた声を聞いた。たったそれだけで、気持ちが緩んで泣いてしまいそうになった。

 
 木の温もりと暖色のランプが優しく照らす店内はノスタルジックで、なんだか別世界にいるみたいだ。

 カウンターに並んで座り、小樽ワインを注文する。その後はまた静まり返る。

「あの、さっきはすみません……私、なにか気に障るようなことを」

 勇気を出して、口を開いた。

 だって、今日はすごく楽しかったから。こんな雰囲気を絶対持ち越したくない。

 すると、浅見さんは首を横に振った。

「いや。こっちこそ。大人げなかった」
「やっぱり……さっきの、すーちゃんのことですよね?」

 それしかないのはわかっている。
 ただ、具体的にどこがよくなかったのか、きちんとハッキリ聞きたい。

 心を決め、顔を真っ直ぐ浅見さんに向ける。

「べつに、関係を疑っているわけじゃない。もし、なにかあったとしても過去の話なわけだし。……ただ、あまりに親しそうに話すから」

 徐々に語尾が弱々しくなる。そんな姿に目を丸くさせた。
 浅見さんは、カウンターの上に組んだ手を見つめ、ぽつりと漏らす。
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