エリート専務の献身愛
「瑠依はオレといるとき、未だに壁を感じる話し方だ。だから、悔しくなった」

 もしかしたら、すーちゃんと私が恋人関係だったとかそういうことを考えているせいかと思っていた。けれど、もっと単純なことで正直びっくりした。

「自分でも驚くよ。あれだけ周りの人間に『総はいつも余裕だな』と言われてきたのに。瑠依のことになると、知らない自分が出てくる」

 失笑する横顔を初めて見る。
 浅見さんはいつでも強引で、でも優しくて、どんなときでも気持ちに余裕がある人だとどこかで決めつけていたかもしれない。

 どんなことにも冷静に対処できて、醜い感情なんて持ちえない人だなんて……そんな人、いるわけないのに。

「ごめんなさい。ただ、私がこういう話し方になってしまうのは……総だから。ドキドキしすぎて、なかなか近づくことなんかできなくて、つい」

 私だって、『城戸さん』って呼ばれるよりも『瑠依』と呼んでくれた方がうれしい。
 堅苦しい話し方や話題よりも、親しげな言葉や話をしてくれたほうがずっと身近に感じられる。

「うん。本当はわかっていたから。でも、あの友達がたぶん、瑠依のことちょっと特別っぽかったから」
「私の特別は総だけだから。……覚えていて、ください」

 一句ずつ、気持ちを込めて伝えた。
 お互いにまた黙ってしまったけれど、さっきとは全然空気が違う。

 もう、大丈夫だ。

 そのとき、オーダーしていたワインがきた。
 私たちは、どちらからともなく視線を交わらせ、静かにグラスを合わせた。

 ワインを口にした直後、後方にいた女の子ふたりの会話が聞こえてくる。

「ねーね。お酒にも花言葉みたいなのがあるって知ってた?」

 そんなのあったんだ。いかにも女の子が好きそうな話題。私も同じくちょっと興味はあるな。

 メニューを見ながら、考えていることはふたりの会話の内容。
 私はつい総にも振ってしまう。

「へぇ。そうなんですね。知っていましたか?」
「……少しだけ。父がそういうの好きだったみたいで」

 小声で尋ねてみたら、総も同じように会話が聞こえてきていたようで、聞き返されることなく答えてくれた。

「そうなんですね。でも、お母さんじゃなくてお父さんなんだ」
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