エリート専務の献身愛
 丸一日いて、ようやく手を繋ぎ隣を歩くことに慣れてきたって言えば、総はまた笑うかな。

 すっかり暗くなった夜の運河を寄り添って歩く。
 日中は運よく暖かかっただけみたいだ。

 夜になるとかなり冷えてきて、薄手の上着じゃ足りなかった。
 思わず身震いをして、自分の準備の甘さに後悔する。

「これ着て」

 こんなとき、スマートに上着を貸してくれるのが、やっぱり完璧な彼だ。
 私が返事をする前に肩から掛けてくれて、笑顔を向けられる。

「でも、総が風邪ひいちゃう」
「風邪ひけば、堂々と休めるし」
「そんなことしたら、レナさんが怒るのが目に見える……」

 レナさんに叱られることを想像し、ふたりで吹き出した。

 運河に薄ら映し出される倉庫、そして、ガス灯は幻想的な雰囲気を感じさせる。ふと、上を見上げると、星がきらきらと瞬いていた。

 さっき見たガラスが散りばめられているみたい。

「ちょっと寒いけど、空気も景色もきれいに感じるね。空なんかガラス細工だな」

 びっくりして視線を戻し、目を丸くする。

「ん?」

 総は口角を上げながら、首を傾げた。
 感じることが一緒。些細なことだけど、それがすごくうれしくて、自然と顔が綻ぶ。

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