エリート専務の献身愛
* * *

 昔から、百七十二センチという高めの身長がコンプレックスで、背を丸くして歩いていた。

 自分に自信もないのに、目立っている気がしてしまって。
 けれど、社会人三年目になって、せめて仕事中くらいは堂々と見せようって心に決めた。

 プライベートでは絶対履かないパンプスのヒールは五センチ。

 意識的に俯きそうな顔を上げるのは、会社から出てひとつめの横断歩道前。
 そこを渡りながら今日一日のスケジュールを頭の中で確認し、渡り終えた先のカフェテラス前を通過直前に、カバンのポケットを確認する。

 携帯。それと、何個かの飴玉。

 そうして一度足を揃えて、少し先の空を見つめ、心の中で『よし』と呟き気合いを入れる。
 肩に掛けたカバンの紐をギュッと握って、すぐに足を踏み出した。

 外資系製薬会社に勤めて三年。私の仕事は、いわゆる営業。
 自社の医療用医薬品を医療機関に導入してもらうことが目的。
 そのために日々病院などを訪問して回り、医薬情報を提供する。

 ……なんて、実際は今年ひとり立ちしたばかりで、まだ三か月ちょっと。
 もちろん契約も取れないし、気は滅入る一方だ。

「痛っ」

 声を漏らした後に、唇を噛んで足を見る。

 買ったばかりのパンプスだから、靴擦れしちゃったんだ。
 これから一日始まるっていうのに、気持ちが萎えるなぁ。

 赤い踵に視線を落とし、小さな溜め息を吐く。

 途中で絆創膏でも買って痛みをごまかそう。

 私は腕時計を確認して、一刻の猶予もないと我に返ると、右足の踵を庇うように歩き始めた。
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