エリート専務の献身愛
リスタートとキス
三軒茶屋に着くと、特に詳細な目的地はなかったようで、適当に歩き進めていた。
約五分くらい経った時に、浅見さんがぼんやり景色を眺めながら口を開く。
「想像と違ったな」
「え? いったいどんな想像していたんですか」
「団子やお茶を店先で座って食べられる茶屋というのが並んでいるのかと思った」
大真面目な顔で言うものだから、思わず吹き出してしまった。
「ふっ。あはは。そんなわけないじゃないですか」
もしかして、時代劇に出てくるような茶屋を想像していたんだろうか。そういう茶店が三軒続いている、とか?
そんな想像、本当にする人っているんだ。しかも、こんなに知的そうな顔立ちをして言うからギャップが大きすぎるよ。
考えれば考えるほどツボで、ついつい笑いが漏れてしまう。
「笑ったね。そのほうがずっと可愛い」
浅見さんの言葉で笑いが止まった。ふと見上げると、優しい顔を向けられていることに気がついた。
「……わざと可笑しなことを言ったんですか?」
さっきのことを私が引きずっていると思って……?
ずっと気遣われていたのかと思うと、心から申し訳なくなってしまう。
窺うような目を向けると、浅見さんは睫毛を伏せて口角を上げた。
「まさか。恥ずかしながら、本気でそう思っていたんだ」
私には、浅見さんの言うことが本当なのか嘘なのかわからなかった。
なんて言葉を掛けたらいいのか戸惑う。
彼は、そんな私の心境をも察したような微笑を浮かべ、心地のいい声でお礼を言う。
「案内してくれてありがとう、瑠依」
「いえ。大したことじゃないです。……じゃあ、私はこれで」
あまりに眩しい笑顔で直視できない。思わず顔を逸らし、変な間で別れを切り出してしまった。
頭をペコッと下げ、そそくさと退散しようと横断歩道へ踏み出す。