エリート専務の献身愛
深く頭を下げ、お礼を言い終わってもなお、そのままでいた。
数秒後、ゆっくり姿勢を戻したのはいいけれど、どう別れを切り出したらいいのか言葉に詰まる。
「えっと、じゃあ……。お蕎麦も、ごちそうさまでした」
『また』はない。
そこを意識してしまって変な間ができてしまった。
「私はついでに靴を見て帰りますね」
今度は浅くお辞儀をして、この場から離れようとした。
「靴は仕事用?」
不意に呼び止められるように投げ掛けられた質問に足が止まる。
「え? あ、はい」
「靴擦れしない靴を履いて、仕事に専念しようとしているんだ?」
なにが言いたいのかと考える間もなく、浅見さんは長い足で一歩私に近付いた。そして、左肩を掴まれる。
驚いて見上げた瞬間、唇にふわりと柔らかな感触が落ちてきた。
瞼を閉じる暇すらなく、彼の顔はあっという間に元の距離に戻っている。
あまりに一瞬で、羽のように軽いキスだったから、心がまだついていかない。
でも、確かに今、私……キス、されたよね……?
大きく見開いた私の瞳に、真剣な面持ちをした浅見さんが映し出される。
「仕事の邪魔をするつもりはない。だけど、公私は別物だと思うから」
「え……なに言って……」
「オレ、やっぱり瑠依が好きだ」
狼狽して声が震える。
比べて、浅見さんは眼差しも声もぶれることなく真っ直ぐだ。
彼の双眸に吸い込まれ、視線を逸らすこともできない。