エリート専務の献身愛
噂と現実
こんなことは口が裂けても言えないけれど、本心では、また会ってみたいなと思っている。
今朝起きてそう思ったことを、営業回りに出るエレベーター内でも考えていた。
もしかして、あのカフェに今日もいる……?
初めて出会った時を思い出しながら外に足を踏み出した。
昨日は予定通り、靴屋さんに行き、靴擦れにも効果的と勧められたインソールを買って帰った。おかげで、今のところまあまあいい感じだ。
一応保険として踵に貼ってある絆創膏は、彼からもらったもの。
悪い人じゃない……はず。むしろ、すごく優しくて気遣いもできて、完璧だった。
だけど、浅見さんとまた会ってしまったら、私の心はまた掻き乱される……絶対に。
いつもの横断歩道の十数メートル手前で、足をぴたりと止める。
この信号を避けて、べつのルートで回ることだってできる。そうすれば、浅見さんに会う可能性はきっと低くなるし、こんなにドキドキする必要もなくなる。
両足を揃えたまま、点滅しだした信号をぼんやり見つめた。
大体、あの若さで専務になっているようなすごい人と、知り合いになることすらおこがましいよ。
彼の全部を知っているわけではないけれど、肩書きも見た目も、私からしたらハイレベル。今、知っているたったいくつかのことだけで、充分私とは次元の違う相手だ。