エリート専務の献身愛
 手からするりと滑った携帯と同時に、数個の飴玉がアスファルトの上を転がった。

 『やってしまった』と片目を瞑り、約一メートルほど先に落下した携帯を心配する。

 壊れていたらどうしよう。
 忙しくて連絡先のバックアップも取ってないし、なにより修理なんてお金が掛かっちゃう。

 最悪の事態を想像し、ヒヤリとしていると、私よりも先に携帯を拾い上げた手が視界に入った。

「あっ。すみません」

 即座に謝り、拾ってくれた主に視線を移す。

 ダークネイビーのスーツを纏った男性は、上半身を起こす直前に私を見上げるように目をこっちに向けた。
 綺麗な純黒の瞳と、整った顔立ちの美しさに携帯を受け取ることも一瞬忘れる。

「はい。これも」

 彼に目を奪われている間に、知らぬ間に足元に落ちていたらしい名刺ケースも拾ってくれ、慌てて両手を出した。

「……重ね重ねすみません」

 携帯が故障しているかどうかという確認も後回しにして、ペコッと頭を下げる。

「いえ。ホープロエクス社の営業の方なんですね」
「えっ」
「ああ。申し訳ない。開いた状態で落ちていたのが見えてしまって」

 びっくりして、姿勢をすでに戻していた彼の顔を見上げた。
 なんで知っているのかと思ってしまったけれど、彼の説明を聞いてすんなり納得がいく。
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