エリート専務の献身愛
「ええ。一応、そうなんです」
「一応?」

 私が勤めるホープロエクス社は、外資系製薬会社で、客観的に考えても知名度もかなり高い方だと思う。

 でも、そのネームバリューに見合った業績を出しているわけじゃないから、正直いつも勤務先を紹介する時に自信がない。

「……まだ社に貢献できてなくて」
「ああ、そういうこと」

 彼は伏し目がちになって「ふっ」と笑い、散らばっていた飴玉を拾い集める。

「だけど、頑張ってるでしょう?」
「え?」

 どうしてそんなことを言えるの?

 そんな疑問が瞬時に浮かび、なおざりになってしまった手を掴まれる。


「足が絆創膏だらけになるくらい、毎日歩き回っているみたいだから」


 優しく微笑みながら言うと、私の手のひらに拾った飴玉をコロンと置いた。


「毎日お疲れ様」


 飴を挟んで重ねられた手が微かに触れ、ほんの少し脈が速くなる。


「え、あ、ありがとうございます」


 頭をペコッと下げ、顔を戻すと柔らかく目を細められた。

 先に彼が去っていき、私はその背中を少し見送ってから、まだ痛みの残る足を踏み出す。

 目立たないように貼った絆創膏。
 それでも一瞬で気づいたあの人に驚いた。

 会ったばかりの人の社交辞令だってわかっている。

 だけど、『頑張ってる』というひと言が素直にうれしくて、歩き進める足の痛みを緩和させてくれた。
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