エリート専務の献身愛
「ああ。今日私は遅くなるから気にしなくていい。さ、早くそっちのほう終わらせてしまいなさい」
「は、はい……。ありがとうございます」

 申し訳なさを感じつつ、報告書を作成する。
 今日のことを思い返しながら進めていくうちに、自然と彼を思い出していた。

 絶対今までの私じゃ、採用してもらえなかった。結果に繋がるきっかけをくれたのは……浅見さん。あの人のおかげだ。
 今すぐ、お礼を言いたい。『浅見さんが祈っていてくれたから、うまくいったんです』って伝えたい。

 パソコンのキーをカタカタと打つ手を止め、デスクの上に置いた携帯に目を向ける。

 連絡……してもいいんだろうか。
 思えばいつでも連絡をしたり会いに来てくれるのは彼のほうで。連絡先は知っているけれど、私からしてもいいんだろうか。

 画面の隅を見つめ、浅見さんが言いそうなことを想像する。たぶん『全然構わないよ』とか言ってくれそう。だけど、せめて仕事している時間は避けたい。……と言っても、浅見さんの生活スタイルを知らない。

 それでも……会いたい。
 この気持ちは、もしかしてやっぱり、私……。

 薄々自分で気づいてはいた。でも、認めたくなかったし、認めちゃいけないとごまかしていた。
 だって、つい最近まで彼氏もいて。約一週間前に偶然知り合った人をもう好きになるなんて現実的じゃない。

 点滅するカーソルはずっとそのまま。
 私は、浅見さんを思いながら、彼が言った言葉を思い出す。

 ――『オレは変わらない瑠依に目が留まったんだ』

 ドクンと胸を打ち、一瞬で正気に返る。
 変わらない私に興味を持ったのなら、その私がコロッと乗り換えたかのような思いを伝えたら幻滅されるかもしれない。

 そうだよ。調子よすぎ。

 私は自分を蔑み、浅見さんへの気持ちにそっとふたをした。
< 87 / 200 >

この作品をシェア

pagetop