エリート専務の献身愛
あれから約十五分で報告書を仕上げ、部長に挨拶をして会社を出る。
時計を見ると午後七時。こんな時間に帰宅するなんて、そうそうない。
もう少し効率よく仕事ができれば、そんなことはないんだろうけれど。
いつもなら人も少ない道が、今は多くの通行人が見て取れる。
私は、行き交う人を無意識に眺めながらゆっくり歩き進めていた。横断歩道を渡り、ふと目を向けるとカフェが営業している。
そうか。いつも私はカフェが閉店した後に帰っているから……。今日はまだ早い時間だからまだやっているんだ。
もしかしたら……浅見さんがいたりしないかな……?
そんなことが、何気なく頭に浮かぶ。
さっき気持ちをセーブしたばかりなのはわかっている。だけど、偶然会うくらいなら。たまたま再会したときに、今日のお礼を言うくらいはいいよね?
誰になにを言われたわけでもないのに、言い訳がましく自分の胸に言い聞かせる。
カフェまで十数メートルのところで足を止めた。
思えば、道行く人を眺めていたのも、心のどこかで偶然を期待していたんだ。
……なんて、狡くて都合のいい人間なんだろう。
急に恥ずかしくなって、猫背でスタスタとカフェの前を通過する。人混みに紛れ込むように気配を消して、カフェテラスを過ぎたところで僅かに視線を上げた。
十数メートル先からこっちに向かって歩いてくるふたりに目を奪われる。
長身の男女。男性のほうは……浅見さんだ。
距離が縮まるにつれ、女性の顔もはっきり見えてくる。驚いたのは、彼女に見覚えがあったから。