エリート専務の献身愛
自制と本音

 翌朝は、寝不足から酷い顔をしていた。得意ではないメイクでどうにかごまかして、卸へ向かう。

「城戸さん、今日は……って、どうかした?」

 紺野さんが私の顔を見るなり、目を丸くして言った。
 やっぱりメイクが下手で疲れ顔をごまかせていないんだと気づかされる。

「あ、いえ。ちょっと寝不足で」
「そうなの? なにかうまくいかないことでもあった?」
「いいえ。昨日は……」

 顔をふるふると横に振って否定しかけ、肝心なことを思い出す。

 私、昨日は仕事がうまくいって、ものすごくうれしくて頭の中はそればっかりだったのに。浅見さんと、『レナ』と呼ばれていた人を見てから、そのことをすっかり忘れていた。

「説明会がうまくいったんです。紺野さんのおかげです」
「え? おれ? なにかしたんだった?」
「笹川先生と九州出身話で盛り上がったって聞いていたから、それで今回はうまくいきましたよ。ありがとうございます」

 そうだ。たったひとつの採用とおもわれるかもしれないけれど、舞い上がるほど浮かれていた。
 なのに、どうにも自然に笑えない。

 紺野さんは困ったような表情をして笑う。

「そうなんだ。それならよかった。……でも、その割に浮かない顔しているね」
「……ちょっと、疲れが出たのかもしれません」

 苦笑いを浮かべ、ごまかすように答えた。

 本当のことなんか言えるはずもないし、第一、仕事に私情を出してしまうなんて社会人失格だ。

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