エリート専務の献身愛
月島総合病院へは夕方頃訪問するようにしている。毎日会社に提出しているスケジュールも、そこだけほぼテンプレだ。
このくらいの時間が、一番ここのドクターを捉まえやすい。だけど、正直朝早くから仕事を初めて、夕方にもなると疲れが蓄積されている。
それでも疲れ顔を隠し、本当は丸めたい背中を伸ばして院内を歩く。
「瑛太くん」
「あ! お姉ちゃん!」
私の癒しである瑛太くんのいる小児病棟に、こっそりと立ち寄るのもまた日課のようなものだ。
広いデイルームの端の席で、お母さんと一緒にいるところに歩み寄る。
「なにしてたの?」
「ちょうどよかった。これ!」
テーブルでなにかしているようだったから、チラッと視線を向けて尋ねる。すると、瑛太くんは私を見上げ、笑ってみせた。
「えっ? 私に?」
ふたつに折られた紙を渡され、目を丸くする。
だって、私が来ることなんて知らないはずなのに、まるでタイミングを計ったようだったから。
「うん。オレ、明日退院するからさ! お姉ちゃんに渡しておいてもらおうと思ってたの」
「えっ。そうだったの!? おめでとう!」
得意げな顔で退院の報告をされ、つい大きな反応をしてしまった。
なんの繋がりもない他人だけれど、今や本当の家族のような存在だから飛び上がるほどうれしい。
瑛太くんは、学校が好きだって言っていたから、また毎日通うことができるんだ。
ランドセルを背負って白い歯を見せる瑛太くんを想像するだけで、ちょっと涙がでそうになる。
私は、涙を堪え、お母さんにも「おめでとうございます」と会釈した。それから、今受け取ったばかりの手紙を開いてみる。