エリート専務の献身愛
「うわぁ。たくさん漢字を知っているんだね。すごい!」

 力強い筆圧で、【いつもあめ玉をありがとう。明日の明日から学校行くから、がんばります。友だちと会いたかったから楽しみです】と書かれている。

 自然と頬が緩み、三行の文面を何度も何度も目で追った。

「ありがとう……。あ、そうだ」

 油断すると泣いちゃいそうで、ごまかすようにポケットを探る。

 いつも飴を用意していた。『どんな味がいいかな』とか考えながら、可愛いパッケージを見つけては手に取って。
 そういうのも、明日からは必要なくなっちゃうのか……。

 うれしいことなのに、やっぱりちょっと悲しい。

 ポケットに入れていた飴を全部右手に握り締め、左手で瑛太くんの両手を取って、その上に乗せた。

「ちょっと寂しくなっちゃうけど、瑛太くんが元気に学校行ってるんだなぁって思い出して、私も頑張るね」

 瑛太くんと視線の高さを合わせ、まだ小さな両手を握って言った。私の寂しい気持ちに気遣って、瑛太くんが口を開く。

「でも、たまに〝がいらい〟には行くんだって。そこにはお姉ちゃん来ないの?」
「うーん。あんまり行かないかなぁ。いつもここの病棟とか、外科病棟とか。今は泌尿器科まで行く予定だよ」
「ふーん。そっかぁ」

 少ししゅんとした姿に胸を痛めつつ、瑛太くんの頭に手をポンと置いた。

「じゃあ、そろそろ行かなきゃ。退院しても、お母さんの言うことちゃんと守ってね。無理だけは絶対しないで」

 飛び切りの笑顔で「約束」と伝えると、頼もしい返事がくる。

「はい! お母さんを困らせたりしないよ。お姉ちゃんも無理しないでね」

 元気な顔で別れられるのが、なによりもうれしい。
 そう思うのは、おこがましいだろうか。

 私なんて、治療できるわけでもない。薬を作ることだってできない。ただプロモーション活動をしているだけに過ぎない。

 でも、私の仕事も、患者さんの笑顔に繋がっているって思い出した。

「瑛太くん、ありがとう」


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