人事部の女神さまの憂いは続く
その言葉に首をかしげていると、名刺を受け取った手とは逆の手で私の腕を掴んで耳に唇を寄せて来る。
「今度、食事付き合ってよ」
一連の行動にびっくりして近すぎるところにある顔を見ると、端正なお顔がニヤリとゆがんでいらっしゃる。
あっけにとられていると、隣にいた原田さんから
「社長、お時間もありますので」
声が掛かった。原田さんに助けを求めるように視線を移すと苦笑いだ。
そこでようやくつかんでいた腕を離されて
「今度誘うから。よろしくね、ニシユリちゃん」
もう一度耳元でささやかれる。何も返事ができないでいる私を置いて、その声の主は手を振りながら、原田さんを携えて去っていった。
訳がわからないまま、その後ろ姿を見ていて、ようやく仕事中だったことを思い出した。
そして珍しくジャケットを着てはいるものの、いつも通りのフランクな感じで話しているステージ上の立花さんに視線を戻した。